空の下の東京ディズニーリゾート

Jackの日記/2009/04/07

ドリームス・ウィズインの分析

Jack:今回はディズニーリゾート25周年のラストを飾るキャッスルショー「ドリームス・ウィズイン」の内容を分析的にみてみたいと思います。
このショーでは、ディズニーキャラクターの他に女の子と男の子の姉弟のキャラクターを立てて構成されていて、観客の主観はこの子たちの目線寄りに置かれることになります。お隣のディズニーシーのドリームカンパニーやオーバー・ザ・ウェイブにもみられる手法で、ミッキーの魔法を登場人物に成り代わって、心理的により間近で体感できる仕掛けになります。姉弟を中心にストーリーが回転する都合上、ディズニーキャラクターの出演は控えめになる傾向があるので、ディズニーキャラクターの活躍を重視する人にとってはちょっぴり残念かもしれません。このショーでは驚くべきことにミッキーの初登場がシーンの後半に配置されています。もちろんミッキー不在の前半には、演出的な意図があるわけですが、これはかなり斬新な試みではないでしょうか。

シナリオの始まりでは、「女の子」「男の子」という新しい登場人物についてのキャラクター設定が行われます。観客にとってはなじみのない主人公たちなので、導入でしっかり説明を加えておかないと感情を移入できなくなります。なお、ミニーやドナルドといったおなじみのキャラクターも登場しますが、彼らについてはどんなキャラクターであるか一切説明はありません。これは彼らが「姉弟」をとりまく「同年代の子供たち」という端役だから、シナリオ的に不要なわけですね。しかし、「あれ、ミニーがいるのに、ミッキーがいないな」と気がつく人はいるかもしれませんね。

ミニーやドナルド、そして大勢の子供たちは帰ってしまい、二人だけ取り残されるシーンに移り変わると、「姉弟」のキャラクターを端的に描写することになります。大事なポイントは、

1.弟は恥ずかしがり屋
2.姉は弟思い
3.それらが原因で二人とも友達を作るタイミングがつかめない

というところです。ここでお話全体の問題提起が起き、弟の成長を軸にストーリーが展開されることが暗に示されています。また、見逃せないのが二番目の弟を大事にする姉という姉弟の関係線です。「弟思い」というキーワードは、一番の山場で強烈に想起され、感動の起点となります。

主役の二人は迷子のプルートを交えて、一緒にミッキーを探すことになります。ここで最重要アイテムのドリームキーがティンカーベルとともに登場します。なんで彼女がドリームキーを持っているんだろうと、一瞬悩んでしまいましたが、よくよく考えれば、彼女はこの一年間ずっとお城の上でドリームキーを掲げ続けていた25周年の象徴的なキャラクターでしたね。ティンカーベル自体は鍵を渡すだけで、ストーリー自体には絡んでこないので特に重要なキャラクターではありませんが、ドリームキーがただの鍵ではないことを印象付ける演出には彼女が最適です。

鍵を手に入れた二人と一匹には、立て続けに不思議なことが起こります。言葉での説明は特になく、おもちゃの世界(トイストーリー)、不思議の国(不思議の国のアリス)、ハワイ(スティッチ)と目まぐるしく舞台が転換しますが、おそらくミッキーを探す二人と一匹の望みにドリームキーが応えようとしてのことなのでしょう。行く先々で男の子は勇気を試されることになりますが、いずれもドリームキーを振りかざすことで男の子に勇気が宿り、彼が成長していく姿が描かれます。この中盤まではドリームキーの独壇場というぐらいの活躍ぶりですね。

しかし、そんなドリームキーも派手に使用しすぎたせいか、その存在が魔女マレフィセントの知るところとなってしまいます。彼女の手下(グーン)はコミカルでかわいらしい所作を披露しつつも、男の子の手からドリームキーを取り上げてしまいます。余談ですが、マレフィセントが男の子たちに直接手を下さなくてよかったですね。彼女の力は強大なので、子供なんか相手にしないというスタンスらしいですが、もしも彼女が本気で襲ってきたら、対抗軸にミッキーを登場させないとならなくなり、物語まで破綻するところでした。

ドリームキーのおかげで展開していたストーリーは、一気に回転を止め、ミッキーに会えないプルートは意気消沈します。責任を感じたお姉ちゃんまで座りこむ始末です。そんな姉の姿を見た男の子が立ち上がるところが、このストーリーの最大の盛り上がり場所となります。これまでの彼の成長劇の総決算であり、「弟思い」の姉に応える姿でもあります。姉に耳打ちすることでしか、言葉を発せなかった彼が、ドリームキーなしでも大声でミッキーを呼ぶことができるようになった、というシチュエーションが彼の内的な変化を端的に示しています。

この盛り上がった場面にダメ押しするのがミッキーの登場です。おいしいところを横取りするかのように、不安定にさせられていた二人と一匹、そして観客の気持ちを一気に安堵させてくれます。ドリームキーがなくても、男の子に勇気が宿ったことは既に観客にも伝わっているはずです。そして、姉弟の悲願でもあった「たくさんの友達」もミッキーを探す道中で既にたくさん手に入れていたのです。ミッキーの合図でディズニーキャラクターたちが一斉に現れて、シンデレラ城を埋めつくさんばかりです。これは25周年のフィナーレを飾るキャッスルショーですから気合いが入ってますね。あれだけキャラクターが並んでいると壮観です。願いが叶った二人は、王子様とお姫様に扮して再登場しますが、このコスチュームチェンジの意図するところは、二人が「幸せ」になったことをビジュアル的に示すことにあるのだと思います。男の子の成長劇が主題なので、彼の内的変化を示したものという捉え方もあると思いますが、お姉ちゃんまでもお姫様になっているので、いろいろと織り込んだ結果の姿なのでしょう。

ちゃっかりティンカーベルが奪われたはずのドリームキーを持って再登場するあたりがちょっと面白いですね。グーンはマレフィセントに鍵を渡す前にティンクに奪い返されてしまったのかもしれません。大団円は巨大なドリームキーをバックに姉弟とミッキー・ミニーがしめてくれます。なかなかまとまった構成のショーで、見ごたえがありました。